- 朝野裕一
運動よもやま話10
について書いた時です。
森の中を歩き疲れた人がそこに切り株を見つけた時、どうするか?
きっとその切り株に腰をかけて休むでしょう。椅子の始まり?かどうか
はわかりませんが、環境とヒトの動きの相互作用をアフォーダンスとい
う考え方から見た人がいます。ギブソン(Gibson)という人です。
今まで運動制御は神経科学者や生理学者など医学方面の人か、工学系の
人からの視点が主でしたが、ギブソンは心理学者です。
ヒトは環境に働きかけると同時に、環境がヒトに何らかの動きなどを
働きかける、という視点は今までなかった考え方でした。
環境との関係性は感覚信号としての入力系として考えられてきましたが
、ギブソンは知覚・認知という側面から環境を捉えました。
単なる感覚(触られている・音が聞こえる・物が見えるといった入力
信号の刺激)ではなく、総合的にそのものなどを把握する能力といった
らいいでしょうか?
感覚信号をただ待つのではなく、自ら周りの環境を探索していく行動に
注視して運動を捉えているとも言えます。
このような運動制御理論は生態学的理論と呼ばれています。
神経学的な機能にはあまり注目せずに運動を捉えているため、そこが
この理論の限界とも言われていますが、運動を学習(あるいは再学習)
する場面においての環境設定などにおいて、のちにとても参考になる
考え方でもあります。
<まとめ>
今まで運動制御について「モーターコントロール」という書籍を参考に
述べてきましたが、過去様々な理論が打ち立てられました。
そしてこれらは決して正誤で語られるだけのことではなく、運動をどの
視点から捉えているかの違いであると、綜合的にとらえる見方が現在の
運動制御の考え方と思われます。
この書籍の著者らは、このシリーズの最初に述べたように、運動を行う
個体(主体)とその課題および周囲の環境という三つの側面から捉える
見方を推奨しています。
彼らはそれをシステム・アプローチと名付けています。この考え方を元
にして、運動に障害を持つ患者さんのリハビリテーションにおける評価
と治療の原則に用いています。
そして、これが真実という統一された理論は未だ存在せず、常に進歩・
発展途上であることも彼らの著書で述べています。
物理の・宇宙の統一理論を求めていたアインシュタインのように、未だ
達成できていない理論を求めて科学は発展し続けるのだと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
また別の機会に、運動学習・運動発達についても勉強していこうと思い
ますのでよろしくお願いいたします。ではまた明日、ごきげんよう。
参考図書)
「モーターコントロール」第4版〜研究室から臨床実践へ〜
(Anne Shumway-Cook, Marjorie H. Woollacott・著、田中繁・高橋明
監訳、医歯薬出版、2013年.)