身体が動く仕組みを知ろう;その1〜関節可動域のこと(4)
ここまで関節可動域、すなわち関節が動く範囲のことについてお話し
してきました。
特に他動的な関節の可動域について述べてきたのですが、ここで言う
“他動”とは何を指しているのでしょう?文字から類推すると他からの力
で動かされる、となります。
他からの力って何?今日はそれを少し考えてみたいと思います。
なぜなら、
意外と簡単なようで勘違いを起こしやすい部分でもあるからです。
他からの力=他力ですね。
ある時は他人からの力を借りることもあるでしょうし、自分の身体の
重さを利用した=重力を利用した力もあるでしょう。
勢いをつけて行うと、物理学的には慣性力の助けを借りることができる
かもしれません。
さてどこまでが、他力でどこからが自力になるのでしょう?
他力を考えるには、その対語としての“自力”を考えることから、他力の
意味を導き出すことができるかもしれません。
でも、
なぜこんな面倒なことを解釈しなければならないのだろう?という疑問
がまず湧くと思います。
なので、
ここで予めお話ししておきますが、
この一連のお話は実は、
正しいストレッチの方法・やり方、気をつけるべきこと、
最終的にはストレッチの目的に関係してきます。
ストレッチしたい筋肉などを目的に沿って伸ばすためには、どの力を
利用しているのか?を知っておいた方が良いからです。
話を続けますね。他力(他動):自力(自動)の話でしたね。
自力=自動(運動)。
自動運動とはその言葉のイメージとは異なり、オートマチック
(自動的な動き)を意味しません。
ここでは、
オートマチックな動きとは、自律的な運動と定義・解釈します。
でも一般的には、
“自動ドア”などで使う自動とは、ドアを開く操作をしなくても勝手に
開閉することを意味します。
勝手に動く=自律的とここでは解釈するわけですね。
この辺がややこしいですね。
人が関節などを動かす場合に使う“自動”とは、何らかの意図を持って
(意識的に)、そこに神経の指令が伴い筋肉が収縮することで起こる
現象を指します。
自ら動くと言う意味での自動です。
自動以外を他動と解釈すれば、
先ほどの勢いをつけて行う動作はあくまで自動運動の範疇に含まれると
言えるでしょう。
例えそこに多少なりとも慣性力という他力が働いていたとしてもです。
まぁ、
一応ここまではそういうことにしておきましょう。話はそう簡単では
ないのですが・・・
話をわざとややこしくしたいわけではないのですが、丁寧に説明しよう
とすると、かえって分かりにくくなるということが結構ありますね。
ここで一旦まとめてみると、
自動運動はあくまでなんらかの筋収縮が伴う動き、他動とは筋収縮以外
の力を外から与えられて動くこと、となります。
関節の動きが拘縮と言う名の病態によって制限が生じた場合は、我々の
ような理学療法士などが、他動的に関節の範囲を広げる練習を行います
これを関節可動域練習(訓練と昔は言われていました、今も使うことが
多いかもしれません)と言います。
※正確には、他動的関節可動域練習です※
他動的に、
ここではセラピストの手が、関節を動かすことになります。
他にも、
よく二人一組で互いの身体の柔軟性を改善させるようなストレッチ体操
がありますね。
あれも他動的な運動です。
では、
自分一人で行うもの(ストレッチ)は自動運動か?と言うと必ずしも
そうではありません。
写真のようなケースではどうでしょう?これはあくまでも自分の上体
(上半身)の重みを他力として利用した、ストレッチです。
アレェ?何だかよく分からないぞ?と言う方がおられるかと思います。
だって、
上半身を曲げていくときには筋肉の収縮を使うんじゃないの?
確かに、最初曲げ始めるときには(初動として)筋肉の何らかの収縮が
必要になります。
でもハムストリングスを伸ばす他動的な力のメインは身体の重さ=重力
です。
身体を曲げるための力をズーッと必要とするならば話は別ですが。
この話は後にしましょう。
ここ(写真)で伸ばしたい筋肉(ストレッチの対象)は、あくまで
太ももの裏に付いている、ハムストリングスです。
ハムストリングスを自動的に動かそうとすれば、膝は曲がってきます。
それでは伸ばす(ストレッチする)のとは反対の動きになってしまい
ますね。
つまり、
伸ばしたい筋肉は休んでいることが、ストレッチ効果を増大させます。
でもハムストリングスがとても硬い状態だと、上体を乗せ続けること
自体が難しく、ということは重力の助けだけでは伸ばしきれないので、
ついつい身体を曲げる力を出し続けて無理にでも、ハムストリングスを
伸ばし続けようとしてしまうでしょう。こんな感じです↓(下写真)。
こうなると、もはや自動的なストレッチに近く、しかも努力を強いる
動作なので、ハムストリングス自体も一緒に収縮してしまう場合が多い
です。
せっかく伸ばそうと思っている筋肉が、かえって収縮を引き起こして
しまう。
そうすると、
ハムストリングスの場合、先ほど書いたように膝が曲がってきてしまい
ます。膝を伸ばした状態を維持したいのに逆になってしまう。
つまり、
伸ばしたい筋肉が逆に縮んでしまうわけですね。
他動ストレッチは、あくまで伸ばしたい組織が収縮をせずに、リラック
スしている必要があります。
何故ならば、
ストレッチの目的が、筋肉などの組織を伸ばすこと、それによって関節
の動く範囲を広げることだからです。
勢いをつけて身体を曲げることも、ハムストリングスの反射的な収縮を
引き起こしやすく、ストレッチ効果は減ってしまいます。
アキレス腱のストレッチなども、その組織を引き伸ばしたいならば、
勢い・反動をつけて行ってはいけません。かえって固めてしまうから
です。
要約すると、
他動的なストレッチはあくまで身体の力を抜いたリラックスした状態で
行いましょう、ということです。
そしてその状態を維持すること。
時間は30秒以上と言われていたり、それぞれ基準が若干異なりますが、
反動や他の部位の力を入れ過ぎたりしないよう気をつける必要がある
ということです。
理由は今まで書いたことです。
いかがでしたでしょうか?
何だか分かりづらい話でしたね。
でも、
ストレッチするときにちょっと思い出してもらえれば、その効果が
今まで以上になるかもしれません。
このシリーズの次回は、自動ストレッチについてです。
ストレッチも他動的と自動的があるんですね。それによって目的が少し 異なってきます。その関係性などについても考えていきたいと思います
今日も読んでいただき、ありがとうございました。また明日。